ぴりっとしたシャツに身をつつみ、カウンターの奥を舞台に、流麗な所作でゲストを魅了するホテルのバーテンダー。お酒のボトルを開ける、シェイカーを振る、グラスを差し出す、そんな細かな所作の一つ一つに、まるで茶道のような様式美を感じさせられます。本日は、カクテルを作るスタンダードな技法から、“ステア”をご覧にいれましょう。思わず見とれる美しい指先に注目です。

ステアとは、混ざりやすい液体同士をミキシンググラスに入れ、バー・スプーンで混ぜあわせるテクニックのこと。この一見簡単そうに見えながらも奥の深い技に、実は特別な想い出があるのだとバーテンダーは話してくれました。昔、とあるバーに、マティーニの神さまとあがめられる伝説のバーテンダーがいたといいます。彼の味とステアの美しさに虜になったバーテンダーは、少しでもその技を学びたい一心でバーに通いつめ、ついにはホテルのバーに勤める身でありながら、直接彼に教えを乞うたのだとか。今やすっかり自分のスタイルとなったステア、その度に、若かりし自分に嫌な顔ひとつせずに教えてくれた、今は亡き、その伝説のバーテンダーを想うのだといいます。

さて、出来上がったのは、Figure.21でもご紹介した、赤プリの名物カクテル“ゴールデンブライト”。流れるように美しい一連の所作を目の前で楽しんでからいただくのは、また格別です。とろりと波打つ黄金の美酒を、どうぞお召し上がりください。